思考のための考具バウハウスの初代校長、ヴァルター・グロピウスの自邸書斎に置かれた、石のペーパーウェイト。見るからに手触りの良さそうな石が革で一部覆われている。艶やかな石の表情と、経年で褐色に変化した革の風合い。それらが組み合わさって醸し出す佇まいに、すっかり魅了されてしまった。実物に触れてみたいが、すぐには叶わない。が、幸いにもお気に入りのいくつかの石と、長年続けてきた皮革工芸用の革は手元にある。自分で作れるかもしれないと、早速試作してみることにした。手元の石は銘石でもない普通の石。大きさや形が自分の手の好みで、いつも手の届くところに置いていた。「グロピウスの石」のような魅力的な外観ではなかったので、それならばと石全体を革で覆うことにした。革を密着させるのは、革の可塑性を利用して成形する絞りと呼ばれる伝統技法。同じ技法を使ったイタリアのコインケースを参考に試作。量産のための木型が用意されているコインケースと違って、石の形は複雑で、固定乾燥のための釘打ちもできないので、成形は一筋縄ではいかなかった。試行錯誤の果てに完成した革石。石は革で包まれると、表面の色や質感が覆い隠され、形が際立つ。また、素のままでは硬すぎると感じてしまうアタリは、革が間に入ることで和らぎ、石の形が優しく手に伝えられるようになった。革の弾力の向こうに感じる石の硬さ。石の魅力を手で感じ、「手が喜んでいる」ような初めての感覚。それ以来、作った革石をいつも傍に置き、ふとした時に手にするようになった。別の石で作るとまた違った印象になるのだろうか?革の厚みを変えたら、触り心地はどうなるのか?石と革が一体化しているかのように密着させるには、どうすればいいのだろう?どうしたら縫い方や細部の仕立てを美しくできるだろう?などと、手が喜ぶであろう未知の感覚と、存在としての完成度を求めて、製作を続けた。革。薄く柔らかい革は加工しやすいが、石の存在感が強く感じられてしまいバランスが悪い。厚く硬い革は、革の存在感が強く、硬さや形といった石の面白さが伝わらず、加工もしにくい。石と革の存在の均衡を保つのに適した製法や厚みの革を様々試し、漸く丁度良い加減を見つけることができた。もともとは動物の皮膚であった革。骨や筋肉の外側で、体の運動に合わせて収縮していた部分。ならば、三次元的な形状にこそ革らしい良さが表れる筈で、いかにしてそれを引き出すか。試作を重ねるうち、革石に求める「らしさ」のようなものが自分の中で明確になっていった。石の魅力のひとつは、長い年月をかけて生み出されたその形。人間の意図が及ばない、自然の摂理によって生まれた形は、純粋で変化に富み、人の思考にわずかな揺動をもたらす。変化は刺激となり、思考のスイッチとなる。同時に(相反する作用ではあるが)、石の形はある種の安心感や心地よさを感じさせるので、変化によってもたらされたアイディアを、さらに膨らませる機能も持つと考えている。石の形をどっしりと受け止め、優しく手に伝える緻密でコシのある牛革。有機的な石の形と好対照な、精緻な縫いと細部の直線的な仕立てによって、ほどよい緊張感が生まれ、その佇まいを空間に演出する。 手で感じ楽しむ物。フィジカル・オブジェクト“Leather Wrapped Stone”は、思考のための考具として、あなたの机上に在るだろう。
Leather Wrapped Stone
思考のための考具
バウハウスの初代校長、ヴァルター・グロピウスの自邸書斎に置かれた、石のペーパーウェイト。見るからに手触りの良さそうな石が革で一部覆われている。艶やかな石の表情と、経年で褐色に変化した革の風合い。それらが組み合わさって醸し出す佇まいに、すっかり魅了されてしまった。
実物に触れてみたいが、すぐには叶わない。が、幸いにもお気に入りのいくつかの石と、長年続けてきた皮革工芸用の革は手元にある。自分で作れるかもしれないと、早速試作してみることにした。手元の石は銘石でもない普通の石。大きさや形が自分の手の好みで、いつも手の届くところに置いていた。「グロピウスの石」のような魅力的な外観ではなかったので、それならばと石全体を革で覆うことにした。
革を密着させるのは、革の可塑性を利用して成形する絞りと呼ばれる伝統技法。同じ技法を使ったイタリアのコインケースを参考に試作。量産のための木型が用意されているコインケースと違って、石の形は複雑で、固定乾燥のための釘打ちもできないので、成形は一筋縄ではいかなかった。
試行錯誤の果てに完成した革石。石は革で包まれると、表面の色や質感が覆い隠され、形が際立つ。また、素のままでは硬すぎると感じてしまうアタリは、革が間に入ることで和らぎ、石の形が優しく手に伝えられるようになった。革の弾力の向こうに感じる石の硬さ。石の魅力を手で感じ、「手が喜んでいる」ような初めての感覚。それ以来、作った革石をいつも傍に置き、ふとした時に手にするようになった。
別の石で作るとまた違った印象になるのだろうか?革の厚みを変えたら、触り心地はどうなるのか?石と革が一体化しているかのように密着させるには、どうすればいいのだろう?どうしたら縫い方や細部の仕立てを美しくできるだろう?などと、手が喜ぶであろう未知の感覚と、存在としての完成度を求めて、製作を続けた。
革。薄く柔らかい革は加工しやすいが、石の存在感が強く感じられてしまいバランスが悪い。厚く硬い革は、革の存在感が強く、硬さや形といった石の面白さが伝わらず、加工もしにくい。石と革の存在の均衡を保つのに適した製法や厚みの革を様々試し、漸く丁度良い加減を見つけることができた。
もともとは動物の皮膚であった革。骨や筋肉の外側で、体の運動に合わせて収縮していた部分。ならば、三次元的な形状にこそ革らしい良さが表れる筈で、いかにしてそれを引き出すか。試作を重ねるうち、革石に求める「らしさ」のようなものが自分の中で明確になっていった。
石の魅力のひとつは、長い年月をかけて生み出されたその形。人間の意図が及ばない、自然の摂理によって生まれた形は、純粋で変化に富み、人の思考にわずかな揺動をもたらす。変化は刺激となり、思考のスイッチとなる。同時に(相反する作用ではあるが)、石の形はある種の安心感や心地よさを感じさせるので、変化によってもたらされたアイディアを、さらに膨らませる機能も持つと考えている。
石の形をどっしりと受け止め、優しく手に伝える緻密でコシのある牛革。有機的な石の形と好対照な、精緻な縫いと細部の直線的な仕立てによって、ほどよい緊張感が生まれ、その佇まいを空間に演出する。 手で感じ楽しむ物。フィジカル・オブジェクト“Leather Wrapped Stone”は、思考のための考具として、あなたの机上に在るだろう。
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